暑さは、持久系スポーツにおける最も予測可能なパフォーマンス制限要因の1つです。気温が上昇するにつれて、身体の熱放散能力は有酸素能力と同じぐらいに重要となります。これは砂漠でのウルトラマラソンに限った問題ではありません。通常のトレーニング環境よりもわずかに気温が上昇するだけでも、ペースや心拍数、または体感の努力感に影響を与えることがあります。
暑さがパフォーマンスに与える影響を理解する
運動中は、筋肉内の反応により運動エネルギーと体温調節の両方の役割でエネルギーが放出されるため、大量の熱を発生させます。気温が低い場合、身体は汗の蒸発と皮膚を伝わる空気の流れによって、その熱の大部分を放散することができます。しかし、気温が20℃を超えると、この冷却効果が低下します。また、25℃付近になると、パフォーマンスに明らかな変化が見られます。同じペースであっても心拍数が5~10bpm上昇し、運動強度が増して乳酸の蓄積が加速します。
高い気温と高い湿度が重なると、その影響はさらに大きくなります。空気中の水分量が多いと、汗の蒸発速度が遅くなり、体を冷却して体温を下げる能力が制限されます。温度と湿度を組み合わせた指標であるヒートインデックス(HI)は、気温の数値だけよりも身体への負担をより正確に予測できます。
例)
● 湿度50%で30°Cの環境では、ヒートインデックスが31°Cとなり、マラソンのペースが約2~3%低下します。
● 湿度80%で30°℃の環境では、ヒートインデックスが38°℃になり、マラソンのペースを5%以上も低下させる可能性があります。
暑さ指数(WBGT)は、直射日光と風の影響も考慮するため、熱中症リスクの予測において正確な数値ですが、専用の装置やその地域でのデータなどが必要です。このWBGTの数値を把握できる場合は、それが基準だといえるでしょう。しかし、利用できない場合は、ヒートインデックスの数値でも十分です。
ボストンマラソンのレース結果に関する研究によると、理想的なランニング時の気温は7~15℃で、エリートランナーはそれよりもやや低い気温を好むと結論付けられました。しかし、18℃までの気温でも、熱によるパフォーマンス低下はごくわずかです。そこから気温が5℃上昇するごとに、湿度、風、個人の耐性にもよりますが、パフォーマンスが約1~3%低下していきます。また、32℃を超えるとパフォーマンス曲線は急に低下し、熱中症のリスクが急激に高まります。
ヒートイン デックス | コンディション | 提案された調整 |
24℃未満 | 低い暑熱 ストレス | 健康なアスリートには調整の必要はありません。 |
24–28℃ | 軽度の暑熱 ストレス | レースやロングランを行う場合、速度が約1~2%低下します。激しいトレーニングセッションを1日の中での涼しい時間帯に行うことを検討しましょう。 |
28–32℃ | 中程度の暑熱 ストレス | ペースを3~5%遅くするか、走行距離を減らしましょう。また、1日を通しての水分摂取量を増やしましょう。 |
33–37℃ | 高い暑熱 ストレス | 熱中症のリスクが増加します。ペースを5~8%遅くするか、走行距離を減らして心拍数を注意深く確認してください。 |
38–40℃ | 非常に高い暑熱 ストレス | 短時間のコントロールできる範囲のトレーニングにとどめましょう。身体の冷却戦略を優先して、長時間または高強度のセッションを避けましょう。 |
40℃以上 | 極度の暑熱 ストレス | ある程度制御された環境や、高度なモニタリング環境でなければ、屋外でのトレーニングが推奨されません。 |
パーセントでペースを減速させる方法:パーセントでペースを落とす場合、時間を秒に換算してパーセントを掛けます。例えば、4:00/kmのペースは240秒/kmです。5%減速させる場合、240×0.05 = 12なので、1kmあたり12秒ペースを落としましょう。
暑熱順化トレーニングへの生理的適応
暑熱適応とは、身体が高温環境への適応を促し、暑熱に関するリスクを軽減します。暑熱環境に繰り返し身体を慣れさせると、耐性が向上するいくつかの生理的適応が起こります。
- 血液量の増加:5~7日以内に、身体は血液中の血漿量を4~12%増加させ、皮膚の血流需要が高まっても心拍出量を維持するのに役立ちます。
- 発汗の早期開始と発汗量の増加:より早く、より効果的に冷却が始まります。
- 深部体温の低下:暑熱順化しているアスリートは、安静時の深部体温がやや低い状態から運動を開始し、ピーク体温も低く維持します。
- 心拍ドリフトの低減:長時間のセッション中でも心拍数は上昇しますが、以前よりも上昇が緩やかになります。
ほとんどの暑熱順化は、7~14日間の継続的な暑熱環境への適応の連続で起こりますが、それを維持するには、少なくとも5~7日ごとに1回の暑熱環境でのトレーニングが必要です。ただし、個人差があるため、適応速度は人によって異なります。
夏季全体における走りの効率
この暑熱順化の過程をモニタリングする方法の1つは、効率スコアです。暑熱環境で初めてトレーニングを始めると、通常のペースよりも心拍数が高くなるため、効率が低下する可能性があります。しかし、暑熱環境に慣れてくると、効率が通常の範囲に戻って、場合によってはその時の効率性を上回ることもあります。これは、心血管系が暑熱環境での熱負荷に適応したことを示しています。
暑熱適応に最適な温度
ほとんどのアスリートにとって、27~32°Cの環境において低強度のトレーニングを行うことで、過度のリスクを伴わずに強力な適応刺激を与えます。しかし、35°Cを超えると適応は依然として起こりますが、リカバリーのための大きなリスクを伴います。脱水率が急上昇し、トレーニングの質が急激に低下することがあります。そのような高温環境の場合、短時間でコントロールされたトレーニングの方が、長時間のセッションよりも効果的です。
COROS POD 2(足部に装着した場合)とCOROS DURAはどちらもアクティビティ中の温度を記録します。
暑さと月経周期:黄体期のプロゲステロン値の上昇は、特に暑熱環境でのトレーニング時に、ランナーの体温と心拍数が通常よりも高くなる原因となることがあります。これによって、脱水症状のリスクが高まります。
暑熱順化トレーニングの構築
適応期間の初期段階では、軽い有酸素ランニング(ゾーン2)を暑さ対策のトレーニングとして活用しましょう。週2~3回で、回復に過度の負担をかけずに適応が促進できます。適応が進んだら、暑い中でも中強度のランニング(ゾーン3)を時折行うことでトレーニング効果が維持できますが、高強度インターバルのトレーニングは涼しい気象条件下で行い、目標ペースを達成できるようにします。
これらのランニング中は、心拍数と運動量を注意深くモニタリングしてください。同じペースで心拍数が通常範囲より5~10 bpmも高い場合は、暑さによる心血管への負担が高まっているため、それに応じてペースや走行距離などを調整する必要があります。
POD 2 を通じてリアルタイムの温度を表示するように、COROSのアクティビティページをカスタマイズすることで、この作業が容易になります。ランニング時の気温が28°Cなのか33°Cなのかを把握することで、心拍数が上昇した理由を理解して、無理なペースでの過度なトレーニングを予防しましょう。
トレーニング中のクールダウン:
● 出発前は、1日中冷たい飲み物で水分補給をしましょう。
● 軽くて通気性の良い、空気の流れを良くするウェアを着ましょう。
● 水飲み場や蛇口などを通る周回コースを設定して、時折水を浴びながら走りましょう。
● 直射日光を避けるため、日陰のあるルートを選びましょう。
暑熱環境でのレース
暑熱環境でのレースでは、たとえ十分な適応ができていたとしても、ペース配分と冷却戦略が必要です。例えば、気温30℃でのレースでは、気温15℃でのレースよりも3~5%遅いペース配分が必要になる場合があります。天候によっては、順応期間が取れない場合もあります。レース当日の気温がトレーニング時の気温よりも大幅に高い場合は、さらに目標ペースなどを調整する必要があります。心拍ゾーンを参考にして、ペースが予想よりも遅くても、計画したペースゾーンの範囲内に留まるようにしてください。
プレクーリング(レース前の身体の冷却)は、深部体温の上昇を遅らすことができます。
● レース当日までの数日間、水分を十分に摂取て電解質を補給しましょう。
● できるだけ日陰や屋内にいましょう。
● 開始前に頭や首、または手のひらにアイスパックなどを当てましょう。
インクーリング(レース中の身体の冷却)は、蒸発を最大化することに焦点を当てましょう。
● エイドステーションでは頭や腕、足に水をかけましょう。
● 帽子に氷を入れるか手に持ちましょう(手のひらを冷やすことで熱負荷を軽減できます)。
● 太陽光を吸収するのではなく反射するために、明るい色のギアを選びましょう。
● 長距離レースでは、栄養計画の一環として水分と電解質を補給しましょう。
レース後は、リカバリー指標をしっかりと確認してください。通常より低いHRV(心拍変動)やリカバリータイマーの延長、または効率スコアの低下などが、熱負荷が大きかったことを示すシグナルであり、より激しいトレーニングを再開する前に余分な休養日を必要とする場合があります。