人間の限界を追求する連続登頂の日々


多くのウルトラトレイルランナーがシャモニーのフィニッシュラインを超えている最中、キリアン・ジョルネはシャモニーにほど近いエクラン国立公園にいました。今回の19日間で、キリアンはアルプス4,000m峰をすべて自分の脚で登頂するというこれまでで最大の冒険に挑んでいました。彼は徒歩と自転車で合計1,207kmを移動し、その獲得標高は75,000mを超えました(20回の富士山登頂に相当)。

彼はなぜこのような挑戦を行ったのでしょうか?キリアンにとって答えは簡単です。彼は小さい頃から山との深い繋がりがありました。山々の頂上や尾根を探検してきた彼の夢は、激しい競争や良い記録、高い知名度よりも深いものです。スピードクライミングであれ、アルプスの未踏ルートの開拓であれ、山々の山頂を繋ぐ最も最適な方法を見つけるというモチベーションが彼を突き動かしたのです。


キリアンのアルプス山脈完全登頂プロジェクトとは?


いつも新しい目標を追い求めているキリアンの姿勢は、これまでの常識を覆しており、彼が世界最高の山岳ランナーと呼ばれる所以でもあります。昨年、キリアンはピレネー山脈を完全登頂した同じような旅として、8日間で3,000m以上の177峰を登頂しました。キリアンは、アルプス山脈の4,000m峰すべてに登頂するという新たな挑戦を発表した時、COROSに「これまでで最もチャレンジングなプロジェクトになるだろう」と語りました。キリアンのこれまでのすべてのプロジェクトがそうであったように、彼が目指しているのはそれぞれの場所を尊重し、健康やパフォーマンス向上のために皆を鼓舞して、地元のコミュニティに寄り添うといった価値観に忠実であり続けることです。スポーツとしてのパフォーマンスと行動を起こし続けるということを両立させているキリアンのユニークな発想が、この冒険を魅力的なものにしているのです。

特に彼の活動は、気候変動の影響や風景の変化を自分の目で観察することを大切にしています。氷河が有名なアルプスの風景は、ヨーロッパ各地の生態系をなし、人々の水源としての役割を果たしています。しかし悲しいことに、急激な気温上昇で地滑りや岩層の損傷なども危ぶまれています。キリアンはアルプス山脈を自分の脚で渡り、地元の資源に頼ることで、人類が自然界に存在することを強く意識し、気候への影響を軽減する必要があるというメッセージをアピールしました。

キリアンが手がけるアパレル・シューズブランドのNNormalとのパートナーシップによるAlpine Connectionsの詳細については、彼らのブログをご覧ください。このブログには、動画やプロジェクトに同行した生理学者の言葉が掲載されています。また、キリアンは今回の全行程でトミール2.0のシューズを着用しました。


アルプス山脈での挑戦のデータ

キリアンは19日間にわたって、アルプス山脈の4,000m峰82座の登頂で、COROS VERTIX 2SとCOROS DURAを使って各活動を記録しました。


COROSのナビゲーション機能

キリアンがアルプス山脈での活動で頼りにしたのは、COROS VERTIX 2SとCOROS DURAでした。VERTIX 2Sには、ナビゲーション、安全性、環境アラートのための重要なツールが搭載されています。そして、-30°C~50°Cの過酷な寒さにも耐えることができ、今回の旅で118時間の連続使用を可能にしました。

さらに、キリアンが通常のトレーニング以外でCOROS DURAを使用したのは初めてのことでした。VERTIX 2Sと同様に、DURAは120時間もの長時間においてGPSが連続稼働するロングバッテリーが特徴です。また、DURAの利点の1つは太陽光充電の機能であり、キリアンは充電の必要がありませんでした。

「未知の部分が多いこのような長いプロジェクトでは、バッテリーが長持ちするデバイスが重要でした。30時間でも100時間でも使えるので、バッテリー切れを起こしたくなかった。VERTIXとDURAの組み合わせは完璧な選択でした。そして、ナビゲーションも重要でした。夜間や悪天候時に落石やクレバスに巻き込まれないよう、安全なナビゲーションが必要で、登った道を正確に戻る必要がありました。安全のためのナビゲーション以外にも、私は睡眠トラッキングなどのデータを活用していました。睡眠トラッキングや酸素飽和度(SpO2)などのデータを使って、日々の回復具合を記録していました。」‐キリアン・ジョルネ

ステージごとの指標

キリアンは今回の旅を16個のステージにそれぞれ分けました。約630kmをバイクで、残りはハイキングでこなし、バイクとハイキングを均等にこなしました。以下は、COROSのトレーニング負荷のデータを含む、各ステージの統計を記録したチャートです。

冒険前にキリアンの週間トレーニング負荷は、3,000~4,000TLの範囲でした。トレイルランニングでは、心拍数と出力ペースの両方がトレーニング負荷の計算に影響します。参考までに、マラソントレーニングをしている一般的なランナーの週間トレーニング負荷は500~800TLの範囲です。


日時活動ステージ移動距離獲得標高運動時間平均心拍数(bpm)トレーニング負荷
8月13日ステージ1: Piz Bernina (1/2)29.12km2,573m6:12119378
8月13日ステージ1: Piz Bernina (2/2)213.06km(自転車)3,984m8:50----
8月14日ステージ2: Oberland37.25km4,496m12:40114687
8月15日ステージ3: Oberland (1/2)99.04km7,890m4:21104843
8月16日ステージ3: Oberland (2/2)46.25km(自転車)888m2:12----
8月17日ステージ4: Weissmies (1/2)30.25km3,381m7:29101174
8月17日ステージ4: Weissmies (2/2)5.21km260m0:22----
8月18日ステージ5: Valais 123.75km3,246m7:40109303
8月19日ステージ6: Valais 247.70km6,139m16:31112864
8月20日ステージ7: Valais 346.46km4,907m15:30124172
8月21日ステージ8: Valais 430.80km4,142m14:04102392
8月22日ステージ9: Valais 536.86km4,297m13:54104469
8月23日ステージ10: Grand Combin Traverse (1/2)110km(自転車)1490m4:38----
8月23日ステージ10: Grand Combin (2/2)24.01km2,786m8:04103233
8月24日ステージ11: Transition (1/2)29.38(自転車)728m1:19----
8月24日ステージ11: Transition (2/2)15.57km831m2:2210878
8月26日ステージ12: Grandes Jorasses28.29km4,199m18:22105488
8月27日ステージ13: Mont Blanc 124.03km3,470m11:47105484
8月28日ステージ14: Mont Blanc 2 (1/2)27.0km3,977m12:52108659
8月29日ステージ14: Mont Blanc 2 (2/2)13.89km973m5:45108290
8月30日ステージ15: Gran Paradiso (1/3)54.63km(自転車)1,298m2:30----
8月30日ステージ15: Gran Paradiso (2/2)17.44km2,019m3:51115181
8月30日ステージ15: Gran Paradiso (3/3)20.4km1,250m3:21110139
8月31日ステージ16: Ecrins (1/2)172.1km(自転車)3,834m7:42----
8月31日ステージ16: Ecrins (2/2)24.5km2,286m5:40113235

今回の1番困難だったステージ

その全行程を考えれば、19日間という短時間でこれだけの距離を踏破するために、キリアンは休憩や補給を挟みながら何時間も動き続けました。最も移動量が多かったのは第3ステージのオーバーラントで、32時間かけて99.04kmを徒歩で移動し、その標高差は約8,000mでした(注:StravaとCOROSのアクティビティ総時間の違いはStravaのアルゴリズムによるもので、Stravaは移動以外の時間を除外)。2番目に移動量が多かった日は第6ステージのヴァレーで、21時間で47.7kmを移動し、6,000m以上の標高差を記録しました。

キリアンは第3ステージのオーバーラントで最も多い活動量を記録。

キリアンはこの両方のステージにおいて、COROSトレーニング負荷のデータとして、それぞれ843TLと864TLを記録しています。ちなみに彼がシエール・ジナル優勝時のトレーニング負荷は1570TL、ゼガマ優勝時のトレーニング負荷は1978TLです。それぞれ160~170bpm前後の心拍数で推移していましたが、今回の旅の心拍数は平均110bpm前後でした。活動時間や心拍数、強度からみて、今回のキリアンは19日間のうち、3日に1度ゼガマに出場して優勝するような活動量だったことがわかります。

トレーニング負荷:運動時間と強度の両方から、アクティビティが身体にどれくらいの影響を与えるかを数値化したものです。トレーニング負荷の数値が高いほど、ハードです。毎週のトレーニング負荷を徐々に増やしていくことで、身体が適応していき、長い時間をかけて段々と強化されていきます。


第3ステージ(オーバーラント)でキリアンは32時間を要した。

第6ステージ(ヴァレー)でキリアンは47.7kmを移動。


キリアンは1日にどれだけ寝たのか?

今回の旅でキリアンの1日の平均睡眠時間は5時間17分でした。プロジェクト挑戦前のキリアンの平均睡眠時間は6時間36分でしたが、このようにCOROSウォッチで総睡眠時間と睡眠段階について測定することができます。

ステージ3(オーバーラント)のパート2におけるキリアンの睡眠データ。短い睡眠時間でもレム睡眠と深い睡眠段階があり、回復することができている。

キリアンはCOROSウォッチでHRV(心拍変動)も測定しています。HRVは、各心拍間のミリ秒単位の変動を測定するもので、ストレスに対する身体の適応能力を示します。HRVが高いほど、身体はハードな負荷からリカバリーすることができます。キリアンのベースラインのHRVは50msですが、今回の挑戦では平均28msでした。睡眠時間が短くなっていつものように完全回復できない状態では、キリアンのHRVは低下していきます。このプロジェクトの後にキリアンが再び休養を取れば、HRVはベースラインに戻るでしょう。

プロジェクト期間中のキリアンのHRV。COROSウォッチは3時間以上の睡眠時間を記録した場合にHRVを記録する。


キリアンの人生のプロジェクト

今回の挑戦は、キリアンがいつも情熱を注いで得意とすること、すなわち山への愛、エキサイティングな新しい挑戦、先人への敬意、生理学的研究、活動家としての姿勢のすべてが集約されていました。このプロジェクトでは集中力、忍耐力、計画性、そして、プロジェクト途中で決断を下してコースを判断するという判断力が要求されました。キリアンは今回、マッターホルン(標高4,478m)やモンブラン(標高4,808m)といった象徴的な山々に登頂しました。

私たちは、今回の旅からキリアンの研究についてさらに学べることを楽しみにしています。キリアンが今回得た知見をどのように活かしていくのか、また現在進行中のプロジェクトについては、キリアン・ジョルネ財団のページをご覧ください。