キリアン・ジョルネはトレイルランニングにおけるパフォーマンスの概念を再定義しました。彼は、酸素ボンベなしでのエベレストへの無酸素登頂を達成し、UTMBをはじめとする世界最高峰のトレイルレースで数々のコース記録を樹立。また、自らの脚と自転車で山脈全体を縦走する偉業も成し遂げています。
キリアンのトレーニングに影響する要素は何でしょうか?それは、自然との深い結びつき、トレーニング時の自分自身へ深い理解、科学的な探究心という3つの要素が考えられます。これらの要素を組み合わせると、持続可能かつ効率的なパフォーマンス向上のシステムを構築することができます。
人類のパフォーマンスの限界に挑むキリアンのアプローチは、すべてのアスリートにとって学ぶことができるでしょう。キリアンが山で最高のパフォーマンスを発揮するためにどのようなトレーニングを行っているのか、その戦略やルーティン、成功のために彼が信頼しているギアなどを以下でご紹介します。
キリアン・ジョルネのギア
使用ウォッチ:COROS APEX 2 Pro
心拍データ:COROS 心拍センサー
重要な指標:出力ペース
ベースフィットネス vs 中強度トレーニング
キリアン・ジョルネにとって、ベースフィットネスは最高のパフォーマンスを発揮するための土台となっています。彼のおもなトレーニングは低強度の有酸素運動です。「私はいつも3~4ヶ月かけて長期的な有酸素のベーストレーニングで基礎を固めます。ベース作りはその後の時期に行う専門的なトレーニングに不可欠です」と、キリアンは語っています。
この期間は単なるトレーニングではなく、彼のライフスタイルそのものでもあります。キリアンは走行ペースを落として明確な目的意識を持ってトレーニングしており、ベーストレーニング期間の約80%をゾーン1(リカバリーゾーン)で消化しています。
一方、強度を高めるトレーニング期間は、ゾーン2と3の強度を中心にトレーニングします。有酸素持久力ゾーンと有酸素パワーゾーンは彼がレース中に走行している強度ゾーンです。
彼はイージーランとクロストレーニング(特にオフシーズンのスキー登山)で持久力を高め、レースが近づくにつれてトレーニングの強度を徐々に上げていきます。キリアンから見れば、最高のパフォーマンスを発揮するためには、基礎トレーニングと強度トレーニングが相互に補完し合わなければいけません。
キリアンのベース期(冬季)の心拍ゾーン別強度分布
キリアンのベース期後(春季)の心拍ゾーン別強度分布
これから始まる高強度トレーニングのフェーズに向けての準備を進めるうえで、心拍数が彼にとって重要な指標となります。「エネルギー代謝に焦点を当てたトレーニングでは、心拍数と呼吸をモニタリングする必要があります。COROS心拍センサーを使うことで、より正確かつ快適に心拍数がわかります」
ヒント:COROS心拍センサーは最高の快適さで高精度のデータを提供し、アスリートが自信を持ってパフォーマンスを追跡できるようにします。
最も重要なのが「一貫性」
キリアンの基礎段階のトレーニング哲学は明確です。「強度よりも一貫性」。各ワークアウトの目的を理解し、トレーニング計画にどう組み込むかを把握しており、これが彼の進歩を支えています。
キリアンは長年、COROS製品を愛用してきました。彼のベースフィットネスのグラフをみれば、トレーニング段階に応じたフィットネスの変化がわかります。「根気強くトレーニングしていきます。適応には何年もの継続的なトレーニング刺激が必要です。持続可能でかつ楽しめる方法を見つけてください」と、キリアンは語っています。
キリアンのベースフィットネス推移グラフ(2022~2025年)
COROSのデータ分析は、持久系アスリートが日々の成長を簡単に記録できるように設計されています。このように、COROSが提供する詳細なグラフと測定データにより、トレーニングの進捗が効果的に管理できます。
成功に向けたピーキング
複数日にまたがるアルプス山脈縦走から世界最速のトレイルレースまで、キリアンの年間の目標は刻々と変化します。しかし、変わらない要素が1つ。それは、トレイルでの長距離のトレーニングです。
彼は徐々にトレーニングの強度と時間を増やし、つねに山の地形への適応を進捗の目安としています。「ここには上り坂がいくつかあり、私は上りと下りを繰り返すことでトレーニングと体力測定を兼ねていて、山でのテクニカルトレーニングの日々を楽しんでいます」
これらのロングランでは特定の身体適応をターゲットにしており、データのフィードバックに基づいてリアルタイムで調整が行われます。「私はRPE(主観的運動強度)に基づいてトレーニングしています。心拍数が上がらない場合は、セッションを変更することもあります。」
ウェスタンステイツ100への再挑戦
キリアン・ジョルネは、2011年のウェスタンステイツ100(アメリカ最古の100マイルトレイルレース)での優勝から14年ぶりにこのレースに再挑戦します。2011年当時、トレイルランニングの世界は今とはまったく異なるものでした。当時はデータよりも「根性」が重視され、数値よりも「瞬間」が重視されていました。キリアンの勝利は、ひたすら山で長時間を過ごすトレーニングからもたらされました。「当時は特定の練習をしていたわけではありません。ただ何時間も山で過ごして鍛えていました」
ウェスタンステイツ100は進化しましたが、キリアンもまた進化してきました。昨今では選手の完走タイムは速くなり、選手が利用できるツールは高度化しました。この新しい段階では、準備に「精密さ」が要求されます。現在のキリアンのトレーニングは、構造化された計画、一貫性、そして出力ペースのようなスマートな指標にサポートされています。
「私はより良いアスリートになってパフォーマンスも向上しました。しかし、今は賢くトレーニングする必要があります。子供がいると練習時間は減り、ルーティンはより明確になります。ほとんどは全体の流れの問題です」
父親としての責任、自身のブランド運営、そして時の流れが、キリアンのアプローチを変えました。野心と生活の責任を両立させる多くのアスリート同様、彼は今や「意図的な短時間」のトレーニングを実践しています。2025年のウェスタンステイツ100への復帰は、単に表彰台を狙うためではありません。挑戦への敬意、キャリアの転機となったレースとの再会、そして積み重ねた知恵をこのレースで試すためのものです。
キリアンのウェスタンステーツへのトレーニング
キリアンのロングランは、これまで以上に目的意識を持って設計されています。レース本番の3週間前に行った80kmのトレーニングは、本番を想定した条件・地形・疲労を再現するために組み込まれた重要なセッションです。
走行中、キリアンは自身のパフォーマンスをリアルタイムで詳細にモニタリングします。彼の平均心拍数、出力ペースとRPEがペース配分を精密に導きます。ただし、過度の疲労を招かないよう、強度はつねに抑制範囲に調整します。たとえばペースが一定なのに心拍数が上昇するといった数値の変化は、疲労蓄積のサインとして注意深く観察されます。
「私は感覚をもとにトレーニングし、かつ心拍数を見て疲労状態か回復状態かを判断します」
心拍数が安定しているにもかかわらず出力ペースが低下している場合、疲労の兆候かもしれません。こうした微調整により、キリアンは長時間にわたって適切な強度で高速ペースを維持できます。「ペースや心拍数が予定より低下していると感じたらペースを上げます」
高負荷ロングラン終了後、COROSのデータを活用して平均心拍数や標高補正された出力ペースなどを振り返ります。例えばこの80kmロングランでは、キリアンの心拍数は142bpmと安定しており、数か月にわたるトレーニングによって築かれた強靭な有酸素能力が示されました。
キリアンのトレーニングのように、彼のロングランも常に目的を持って設計されます。これらのランは、技術的な地形での練習時間を確保し、ランニングシューズから栄養戦略まで、レース本番に向けてすべてをテストする機会となります。
標高差2,500m以上のコースを選ぶことで、キリアンはレースの起伏を再現します。上りと下り両方への身体的な準備を整えるセッションでした。
キリアン・ジョルネの心拍ゾーン
ヒント:キリアンが開発に協力した出力ペースの指標は、各ランナーに合わせてペースを調整します。COROSはアスリートのパフォーマンスから学び、アルゴリズムを洗練してよりスマートで個別化されたトレーニングの洞察を提供しています。
キリアンのトレーニングから学べること
キリアン・ジョルネのアプローチは、身体へのトレーニング以上のものです。彼のトレーニング計画が成功する理由は、自己認識とデータに基づいた意思決定にあります。入念な計画、精密な実行、そして一貫した成長を見据えた長期的なビジョンが組み合わさっているのです。
キリアンのトレーニングにはつねに明確な目的があります。COROS心拍センサーや出力ペースなどのツールを活用し、その日のトレーニングへの要求に応じて強度を調整します。疲労の兆候をモニタリングしながら、すべてのランニングが大きな目標に繋がるようにしています。
初めてのウルトラトレイルを目指す人も、自身の限界への挑戦をする人も、キリアンのアプローチから学べる重要なポイントは以下です。
● 意図を持って取り組む:各ワークアウトを特定の目標と結びつけ、なぜトレーニングするのかを理解します。
● データを活用する:ウェアラブルデバイスからのリアルタイムのフィードバックを活用し、セッションを適宜調整。身体のパフォーマンスと回復状態を把握します。
● 忍耐強く築く:継続性や一貫性に重点を置くこと。真の進歩は、持続可能な長期トレーニングから生まれます。
● 目標と意志とのバランス:人生と同じく、トレーニングも進化すべきです。仕事、家庭、その他の責任との両立が必要な時でも、成長は「より多くの時間」ではなく、「より賢い時間の使い方」で実現します。
スマートなトレーニングを始めませんか?
キリアンが信頼するCOROSのラインナップを紹介しましょう。プロアスリートも使用するCOROS APEX 2 Proや、データ分析ツールのCOROS Training Hubまで、全てのトレーニングデータが無料でアクセスできます。自分の努力感を理解し、ベースのトレーニング期からレース当日までトレイルランニングのトレーニングを最適化しましょう。