COROSは、アメリカのオリンピック選手でもあり、世界室内選手権のメダリストのニッキ・ヒルツをチームに迎えられることを大変嬉しく思います。今シーズン、ヒルツは新たな挑戦に臨みます。目標は、プリフォンテーン・クラシックでの好記録、そしてアメリカ記録の更新です。その挑戦の裏には、綿密に計画され、長い時間をかけて築き上げられたトレーニングがあります。今回は、ヒルツがその大舞台に向けてどのように準備を進めているのかをご紹介します。
ヒルツが世界トップクラスである理由
ニッキ・ヒルツといえば、鋭いラストスパートが代名詞です。
「自分でも理由はよく分かりません。ただ、フィニッシュラインが見えると何かが湧き上がってくるんです」
本人はそう語ります。その力は昔から備わっていました。高校時代のコーチも早い段階でその才能に気づいており、以来ヒルツはその武器を磨き続けてきました。しかし、キャリアのある時期までは、そのスパートだけでは限界がありました。
「スピードもラストスパートもありました。でも、最後まで集団についていけるだけの持久力が十分ではなかったんです。4分05秒から4分02秒くらいのレースなら対応できましたが、3分台のレースになると全く勝負になりませんでした」
その弱点は、最も重要な場面で表面化しました。ハイペースの選手権レースで、ヒルツは勝負に絡むことができなかったのです。そのシーズン終了後、ヒルツはそこに成長の可能性を見出しました。
「改善できる部分が見つかると、むしろワクワクします。『もしここを少しでも伸ばせたら、自分に足りなかった最後のピースになるかもしれない』と思うんです」
そこで新しいコーチを迎え、高地トレーニングの効果を求めてアリゾナ州フラッグスタッフに引越しました。不足していた持久力を手に入れるためです。それ以来、ヒルツはどのレースでも終盤に圧倒的な強さを発揮する存在となりました。
シーズンを通じたトレーニング構築
ヒルツのシーズンは、まず1つの問いから始まります。
「今年最大の目標は何か。そして、それを達成するために何が必要か」
今シーズンの答えは、これまで以上に明確です。
「今年は意識的にプリフォンテーン・クラシックで好記録を狙っています。記録という明確な目標を掲げて追いかけるのは初めてなんです。私はどちらかというと記録よりもレースで勝負するタイプだったので、新鮮で楽しい挑戦ですね」
ただし、その準備は従来通り、大会日程から逆算して組み立てられます。
「まず今年の目標を決めます。通常は世界選手権やオリンピックです。そしてそこから逆算してトレーニング計画を立てていきます」
7月上旬のプリフォンテーン・クラシックは、その計画の中心に位置づけられています。ダイヤモンドリーグの1大会でもあり、アメリカ記録への挑戦の舞台でもあるからです。
シーズン中にはレースが集中する期間もあります。およそ1か月間にわたって頻繁にレースへ出場し、その後再び負荷の高いトレーニングブロックへ戻るという流れを繰り返しています。
典型的な1週間のトレーニング
シーズンの進行に応じて内容は変化しますが、1週間の基本構成はほとんど変わりません。変化するのは主にペース設定のみです。ヒルツのトレーニングは、年間を通してほぼ同じ7日サイクルで進められています。

月曜日と木曜日は、朝夕2回のジョグを実施し、その後にスピード向上のためのドリルを行います。火曜日は二重閾値走です。水曜日はやや長めのランニングを実施します。そして金曜日は、1週間で最も重要かつ過酷なトレーニング日です。選手権レースで求められる能力を再現するための、極めて専門性の高いトラックセッションが行われます。土曜日は約22.5kmのロングラン。日曜日は完全休養日です。
「週に必ず1日は完全オフの日を設けています。特に標高約2,130mの環境で生活しているので、本当に助かっています。日曜日は何があっても走りませんし、ランニングのことも考えません」
さらに、水曜日と土曜日には筋力トレーニングも行います。基礎構築期には高重量を扱うトレーニングが中心ですが、レースシーズンが近づくにつれて、プライオメトリクスや爆発的なパワーを高めるメニューへ移行していきます。こうした高負荷トレーニングを支えるうえで、筋力トレーニングは欠かせない存在です。
「筋トレをうっかり休むと、翌週には必ずどこかに小さな不調が出るんです。健康を維持するために欠かせません。私にとっては生活の一部ですね」
注目のトレーニングセッション
最も重要なトレーニング日は火曜日と金曜日です。火曜日は午前に閾値走、午後にも再び閾値走を行います。各セッションでは、閾値ペースで合計約6.4~9.7km(4-6マイル)を走ります。内容は400mから3200m(2マイル)までの反復走で構成されます。

ある日の二重閾値走では、午前に1600m(1マイル)×6本、午後に1600m×4本を実施しました。いずれもレストは1分です。こうしたトレーニングの主な目的は、ゾーン4での運動時間を積み重ねることです。十分な代謝刺激を与えることで、高い有酸素能力を維持しています。
閾値走は感覚を重視して行われます。風の強さや疲労度、高地環境などの条件によってペースは調整されます。
「閾値は感覚です。通常なら1マイルで5分20秒ペースかもしれません。でも週末のレースで脚が重ければ、その日の1マイルの閾値走は5分26秒になることもあります」
一方、金曜日のトレーニングは全く異なる考え方です。求められるのは正確なラップタイムです。
「金曜日は感覚を追いかける日ではありません。ペーサーの後ろについて決められたペースを守ります。実際のレースもそういう場面がありますからね」
プリフォンテーン・クラシックのような重要レースへ向けたセッションは、その年で最も競技特異性の高い内容になります。ヒルツに金曜日の典型的なメニューを尋ねても、答えはこうです。
「典型的なメニューなんてありません。単純な400m×12本といったインターバル走ではないんです。300mを走ってから600m、その後にリカバリーを挟んで800mを行うなど、目的に合わせて非常に細かく設計されています。でも、それが好きなんです。目標に向かって進んでいる実感がありますから」
近年では、こうしたセッションはダイヤモンドリーグ特有の急激なペース変化への対応練習も兼ねています。レース中にライバルが突然、1周60秒のラップ(2:30/kmペース)を刻んだ場合への対応を、日頃から繰り返し練習しています。
「そういう感覚をトレーニングで経験しておかないと、本番で対応できません」

このトレーニングを見るだけでも、その複雑さが分かります。1回のセッションに8種類もの異なるペースが含まれ、時には1回の疾走中にペースアップが含まれます。特に500mでの400m→100mのギアチェンジは、金曜日のトレーニングで頻繁に取り入れられる要素で、これによって、ヒルツの鋭いラストスパートを磨いています。すべての疾走でラップタイムは厳密に管理されます。レースでは1秒の差が優勝と表彰台圏外を分けることもあるため、雨の日でも晴れの日でも、ヒルツは毎回正確に設定タイムをクリアしています。
火曜日と金曜日のセッションは対照的です。火曜日の閾値トレーニングは感覚重視で、シンプルかつ再現性の高い内容です。一方、金曜日は綿密なペース管理のもとで行われる極めて専門的なトレーニングであり、陸上競技の中でも戦術性が最も高い種目に必要な能力を磨くために設計されています。
今シーズン、ヒルツがプリフォンテーン・クラシックのスタートラインに立つ時、その背景にはこれまで培ってきたラストスパート、高地トレーニングで手に入れた持久力、そして目標達成に向けて計画的に積み上げてきたシーズン全体の取り組みがあります。そのようなアスリートをCOROSチームに迎えられることを、私たちは誇りに思います。ニッキ・ヒルツ、ようこそCOROSへ。プリフォンテーン・クラシックでの挑戦を楽しみにしています。
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