口に出すかどうかにかかわらず、多くのランナーが同じことを信じています。それは『もっと時間さえあれば、すべてが変わるはずだ』ということ。走行距離を伸ばしたり、リカバリーに十分な時間を割けたりすれば、現状と理想のギャップは埋まり始めると信じているのです。
しかし、チャーリー・スウィーニーは、それとは正反対の考え方によって自身のキャリアを築き上げました。
ほとんどの朝、彼の1日はトラックやトレイルで始まるわけではありません。手にスマホを持ち、メッセージを返すことから始まります。多くの人がようやく1杯目のコーヒーを口にする頃には、彼はすでにInstagramのDMをさばき、Redditのスレッドを読み込み、COROSコミュニティで交わされている会話をチェックし終えています。その後は会議、そしてまた会議。仕事は安定していますが、時に予期せぬことも起こる、紛れもないフルタイムの勤務です。
そんな目まぐるしいスケジュールの合間を縫って、彼は1日2回のトレーニングをこなしています。時間を増やすことを望むのではなく、今ある時間をいかに最大限に活用するか。そのことだけに集中しているのです。そして、限られた時間の中で着実に力を蓄えている彼は、ボストンマラソンで米国勢のトップ集団に食い込むほどのパフォーマンスを、静かに、しかし確実に作り上げています。
目の前にあった道
チャーリーの物語は、決して「最初から決まっていた」わけではありません。彼は、多くの人が想像するような典型的なランナーではありませんでした。ジュニア時代など、早くから1種目に絞るのではなく、秋はアメリカンフットボール、冬はバスケットボール、春は野球と、そのシーズンごとのスポーツに打ち込んできました。走ることは得意でしたが、それはあくまで他のスポーツのための体力作りや、コンディションを維持するための手段に過ぎなかったのです。
転機は高校時代のフットボールの怪我とともに、静かに訪れました。身長173cm、体重59kg。他のスポーツでは体格的な限界を感じ始めていた一方で、走ることに関しては、彼の記録は伸び続けていたのです。
その後、彼はNCAAのディビジョンII校の西コロラド大学に「自費参加の練習生」として入部し、最初の1年間は「レッドシャツ(試合に出場せず練習に専念する期間)」として過ごしました。それは同時に、この選択が正しかったのかと自問自答する、適応の日々でもありました。成長は最初こそ緩やかでしたが、ある時を境に一気に加速します。気づけば全米大会で15位以内に入り、何度もオールアメリカン(全米選抜)に選出され、ついには奨学金を獲得するまでになりました。最終的には全米屈指のNCAAディビジョンI校であるコロラド大学へ編入し、学生最後のアスリート生活をそこで締めくくったのです。
大学での競技生活を終える頃、彼はなすべきことをすべてやり遂げていました……。ただ1つ、卒業後の「確かな保証」を除いて。
そこで、彼は多くの人がそうするように、ごく当たり前の道を選び、就職したのです。
残された制約
2023年、チャーリーはカスタマーサポート担当としてCOROSに入社しました。その職務は多岐にわたる能力を必要としましたが、何よりも"時間"を必要とする仕事でした。そこには、エリート選手としてのトレーニングを優先できるような、あらかじめ用意された柔軟性などありませんでした。
仕事を始めて間もなく、彼はその後のすべてを決定づけるひとつの決断を下します。それは「仕事に合わせて走るのをやめる」のではなく、「仕事を中心に据え、その周りに走る時間を組み込む」ということでした。一見、些細な違いに聞こえるかもしれません。しかし、これこそが決定的な分かれ道となったのです。

仕事に就いて3ヶ月が経つ頃、彼は自分なりのリズムを掴み、初マラソンに向けた準備を始めました。 そこに「理想的な練習計画」などは存在せず、あったのは「今、使える時間」だけでした。
トレーニングは、毎日の生活に残されたわずかな隙間にねじ込まれました。ある時は始業前の早朝に走り、またある時は、会議続きの長い1日の終わりの夜に走る。そして、必要な練習量を確保するために、その両方をこなす日も少なくありませんでした。
「いつなら走れるかを確認していました」と彼は言います。「あとは走った。それだけです」
一見、制約に思えたものが、別の形を見せ始めました。時間が足りないからといって、練習量を減らさざるを得なかったわけではありません。むしろ、限られた時間だからこそ、彼は圧倒的に効率的にならざるを得なかったのです。
「今、この瞬間」に集中することを学ぶ
肉体的な過酷さは火を見るよりも明らかでしたが、精神的な過酷さは目に見えるものではありませんでした。 チャーリーにとっての真の課題は、走行距離や強度の管理ではなく、"意識"の管理にありました。時間やストレス、そして人間関係。それらはすべて、数値化できず複合的に絡み合っています。会議やスケジュールが急に変わることは日常茶飯事ですが、1日がどれほど複雑に進んだとしても、トレーニングを一時停止させるわけにはいかないのです。
練習を1回休むことよりも危ういのは、どこにいても「無気力な状態でいることです」彼は気づきました。
「仕事中に走ることを考えていたら、ランニングも仕事もパフォーマンスも落ちてしまう」と彼は言います。「逆に、走っている間に仕事のことを考えていても、結果は同じなんです」
時間をかけて、彼は多くのプロランナーが考える必要さえないほどの"規律"を築き上げました。 仕事は仕事。ランニングはランニング。それぞれに全神経を注ぐことに集中することにしたのです。
もちろん、それが完璧なシステムというわけではありません。時には電話1本でランニングが中断されることもあります。しかし、彼の信念が揺らぐことはありません。「どこにいようとも、その場所に全身全霊で向き合う」という原則は、常に保たれているのです。
すべてを塗り替えたレース
2023年12月、チャーリーは大きな野心と冷静な現状把握の気持ちを持ってカリフォルニア国際マラソン(CIM)のスタートラインに立ちました。彼にとって初のマラソン。目標はそれを反映したもので、トップ10以内でフィニッシュすること。そして、最大目標はパリオリンピック全米選考会への出場権を獲得することでした。
結果は予想を遥かに上回るものでした。彼は2時間13分という好タイムを叩き出し、3位でフィニッシュしたのです。
これほどの成績を残せば、そのシーズンを象徴する最高潮の瞬間として満足してもおかしくありません。しかしチャーリーにとって、この結果はむしろ「自分がいかに多くのことを見落としていたか」を突きつけるものとなりました。多くの初マラソン経験者が共感するように、彼はさらなる伸び代を確信したのです。
「走っている最中に補給をしていなかったし、電解質も摂っていませんでした」と彼は振り返ります。「もっと改善できることがたくさんある、とその場ですぐに気づいたんです」
この成績は大きな意味を持っていましたが、それは一般的な"意味"ではありませんでした。それは単なる「実力の証明」ではなく、彼の限界がまだ決まっていないことを示す"合図"だったのです。
これから先、現状と理想のギャップを埋めるために必要なのは、練習量を増やすことではありません。練習の質を高めることだったのです。
推測に頼らない

ボストンマラソンに向けたチャーリーの週間トレーニング負荷の推移
制約の中でのトレーニングには、わずかなミスも許されません。チャーリーには、間違った判断や非効率な動きを補うための「余分な時間」がないからです。彼のスタイルはその現実を反映しており、自分が今何をしているのか、そして身体がそれにどう反応しているのかを、素早く理解することに重点を置いています。
彼はベースフィットネスの長期的な傾向を追跡し、個々のトレーニング強度が実際のパフォーマンスに見合っているかをモニタリングし、乖離していないかどうかに細心の注意を払っています。もし、走った感覚が想定よりきつく、データもそれを裏付けているのであれば、彼は即座にメニューを調整します。
「だいたい、走る前からどんな内容になるか予測できます」と彼は言います。「もしその予測と一致しなければ、何かがおかしいと気づけるんです」
目指しているのは、一切の無駄を省くこと。すべての練習セッションを数値化可能な成果へと繋げ、次回の評価と最適化に活かしています。
「制限」によって形作られたスケジュールの中では、こうした細部へのこだわりこそが、彼にとっての大きな武器となるのです。
タイトな生活の裏側
避けられないことですが、そこには常に「代償」が伴います。 チャーリーは、仕事と競技のバランスが簡単に保てるとか、その過程で犠牲にしているものは何もない、などと強がったりはしません。彼の1日は、時に厳格に構築されています。朝は仕事で始まり、正午には1回目のランニング。午後は再びデスクに戻り、夜は2度目のランニング、その後に夕食、リカバリー、そして眠りにつくのです。
彼の生活に余暇の時間はほとんどなく、ここ数年、テレビドラマのシリーズを最後まで見終えたことさえありません。夜の外出は滅多になく、友人との約束も、翌日のトレーニングに支障が出るなら二の次となります。チャーリーにとって、こうした代償は、ロードでの走りにおいてもオフィスでの業務においても、自身の長期的な目標に向けた「投資」なのです。
浮かび上がってくるのは、仕事とランニングだけに支配された生活ではなく、その両方によって形作られた1つの生き方であり、一方が他方を補強し合っているのです。仕事という規律があるからこそ、トレーニングのやりすぎを防ぐことができ、トレーニングの厳しさがあるからこそ、仕事での集中力が研ぎ澄まされる。この2つの組み合わせが、日々の生活から余計な雑念を削ぎ落としてくれるのです。

COROSでの勤務以降(直近2年間)のチャーリーのフィットネス推移
自問自答の日々
「もし、仕事をしなかったらもっと強くなれるのではないか?」
スウィーニー自身、その問いを何度も自問してきました。しかし、彼の現時点での答えは変わりません。
「今と違う生活をするつもりは、実際にはないと思います」と彼は言います。
時間が増えたからといって「必ずしも良い結果に繋がるとは限らない」と彼は考えています。むしろ、新たな問題が生じるかもしれません。時間があることで考えすぎたり、練習をしすぎたり、あるいは微々たる差への不必要な固執が生まれるかもしれません。
そして、仕事があるからこそ、生活に規律が生まれます。仕事は行動時間を制限しますが、それゆえに「何が重要か」を明確にしてくれます。デスクでの1日を終えてランニングに向き合う時、それは彼にとって常に「チャンス」の時間なのです。
「走らなきゃいけないじゃない。走らせてもらえるんだ、という感覚なんです」
ボストンの先へ
チャーリーがボストンマラソンのスタートラインに立つ時、その胸には具体的な目標があります。順位、タイム、そしてレース運び。アスリートとして、それらは重要な要素です。しかし、それらは彼がこれまで築き上げてきたものの「真の価値」を測る、決定的な物差しではありません。
より重要なのは、彼をその場所へと導いた「プロセス」そのものです。制約を取り払うことではなく、制約の中でやり抜くと決めたこと。理想的な条件を追い求めるものではなく、条件が整うまで待つということを拒んだことでもあります。
多くのランナーは「成長するためには、今とは違う人生、違うスケジュール、違う環境が必要」という考えを持っているかもしれません。
チャーリーの経験は、その考えを覆すものでもあります。しかし、時間が重要ではないという意味ではなく、多くの人々が信じているような「時間の有無が限界を決める要因」になるということは、めったにないということなのです。
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