キリアンは2024年最初のレースで、故郷のスペインに戻りゼガマで優勝しました。レースに向けたキリアンのトレーニング内容を見ながら、なぜこのレースが彼にとって重要だったのかを紐解いていきます。

キリアンはついに、自身12回目のゼガマ・アイスコリ(以下、ゼガマ)の完走でした。このレースは、トレイルランニング界で最も過酷で美しいレースの1つとして知られています。挑戦的なトレイルコースと素晴らしいバスク地方の景色で有名なゼガマは、参加するランナーたちを限界まで押し上げます。

キリアンはこのレースに長く参加しており、今回の優勝でまた彼の素晴らしい実績を増やし、信じられないほどの強さとスポーツへの愛を示してくれました。この記事では、彼のトレーニングの振り返りとゼガマの歴史を織り交ぜながら、ゼガマでの通算11勝目のキーポイントをご紹介します。


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ゼガマでの歴代の優勝回数と大会記録の更新

キリアンとゼガマのストーリーは素晴らしいものです。彼は2007年に初めてゼガマに参加し、この42.2kmのトレイルレースで今回優勝するまでのに11回中10回優勝という、最も成功を収めていた1人でした。

キリアンがこの大会において特別な存在なのは、過酷な条件でも一貫して優れたパフォーマンスを発揮する能力です。ランナーたちはゼガマでの急勾配の上りやテクニカルな下り、予測不可能な天候というハードなコースを理解しています。しかし、これらの障壁があるにもかかわらず、キリアンは常に速さと安定感を持ってコースに挑戦してきました。

キリアンは2022年のゼガマ・アイスコリで3時間36分40秒の大会新記録を樹立。


2022年、キリアンはゼガマを大会新記録で優勝し、このレースにおいて彼の存在感を強めました。彼のパフォーマンスは、優れたVO2maxとトレイルランニングで可能な限りの限界に挑戦する能力を証明するものでした。

レースの大半でキリアンはライバルたちに先行されないように果敢に走り、33km付近の重要な上りで彼は後続との差を広げて、最終的には3時間36分40秒の大会新記録での勝利を収めました。キリアンは2017年にStian Angermund-Vikが樹立した3時間45分08秒の大会記録を約9分も更新したのです。

2022年5月29日:ゼガマでのキリアンの大会新記録の走行データ

COROSの指標を活用したヒント:出力ペースの指標を使って、キリアンは2022年シーズンにレースで安定したパフォーマンスを残せました。標高や地形の変化のなかで、一定のペースや努力感を保つことができていたのです。


2024年のゼガマへの準備

ゼガマに向けてのトレーニングは、キリアンのようなエリートアスリートにとっても簡単な内容ではありません。準備期間にはランニング、筋力トレーニング、そして他の多くのアスリートとは異なるクロストレーニングの独自アプローチが緻密に組み合わされています。

冬季にキリアンはハードなトレーニングよりも、練習時間の長いボリュームに重点を置いたトレーニングに取り組みます。。彼はそのほとんどの時間をスキーに費やし、ランニングは週に1、2回だけ行いました。低強度練習が主となるスキーモ(山岳スキー)におけるトレーニングの性質は、ランニングにも通ずるベースフィットネスを維持・構築し、さらには筋持久力を向上させる効果があるので、彼の冬季のトレーニングを補完するのに十分なクロストレーニングとなっています。

キリアンの冬季トレーニング:週間プログラムの一例


このクロストレーニングの期間では、暖かくなってきた季節に取り組む急な上りやテクニカルな下りに備える基礎を培うものであり、ランニングのトレーニングによる着地衝撃の低減に貢献しています。スキーモというトレーニングは関節に大きな負荷をかけることなく、必要な筋力と有酸素運動のトレーニングとして機能しており、キリアンはベースを構築して春からのトレイルランニングのシーズンに備えていくことができています。


キリアンはオフシーズンの冬季に、週に何度もスキーモセッションを行う


雪が解けて本格的なトレイルランニングシーズンが近づくにつれて、キリアンは再びランニングに焦点を当てたトレーニングに移行しますが、その時点までのスキーモのトレーニングの恩恵を感じています。彼の脚はたくましさを増し、有酸素能力を備えた状態で、トレイルの特異的な技術練習を行う準備ができています。

今回のゼガマでの12回目の挑戦に備えて、キリアンはコースに似たような擬似的なランニングのトレーニングを行いました。その内容は、坂を繰り返し上るトレーニングや長時間のトレイルラン、テクニカルな下りなどが含まれており、彼が42.2kmへの挑戦に備えるために考えられた内容です。


COROSの指標を活用したヒント:ベースフィットネスはトレーニング期間で常に変動し、トレーニング刺激に対する身体の反応を反映しています。オフシーズンから基礎、本格的なトレーニングサイクルへと移行していくと、通常では練習量や強度が増加します。これによって、レースに向けての構築段階ではベースフィットネスが上昇傾向になっていくはずです。


ゼガマでの実際の走行データ

キリアンは今回のゼガマでの12回目のレースに向けて、今まで以上に準備が整っていました。彼のこれまでの10回の優勝歴と2022年の大会記録は、観客たちに大きな期待を抱かせました。そして彼は再び、なぜ彼がこの大会で史上最高の存在なのかをその走りで証明しました。

キリアンは今回のレースを強気に進め、自身の大会記録の更新を目指して走っていましたが、レース中に何が起こるかわからないもので、最後の10kmで胃のトラブルが起きてペースダウンを余儀なくされました。それでも、彼はフィニッシュラインを最初に越えて、ゼガマで通算11回目の優勝を達成しました。


ゼガマのコースは非常にハードで、標高差2,736mのテクニカルなトレイルで構成されています。ランナーたちは天候次第でレースがどのようになるか当日までわかりませんが、今回のコンディションもハードなものでした。参加者たちは山頂に到達した時に高い湿度と雨に耐えました。以下が、今回のキリアンのレース中で最も厳しいセグメントでの実際の走行データです。


レース前半:スタート~アラッツ

キリアン・ジョルネの'24ゼガマの走行データ:スタートから16.38km地点まで


レース前半のハードな上りを中心とした区間で、キリアンは後続集団に約1分の差をつける積極的なスタートを切りました。彼は次第にペースを上げて後続を引き離していきます。特にトレイルレースの序盤では、出力ペースの指標を活用することで、キリアンはオーバーペースを回避することができました。


レース中盤①:アラッツ~サンクティ・スピリトゥス

キリアン・ジョルネの'24ゼガマの走行データ:スタートから16.38〜19.86kmまで


この区間はレースで最も注目すべき、かつ挑戦的な区間の1つです。キリアンは急でテクニカルな下りをこなしていく必要がありました。岩だらけの地形にもかかわらず、彼はこの激しい区間を乗り切るために、次の大きなアタックに備えてペースを上げていきました。


レース中盤②:サンクティ・スピリトゥス~アイスコリ

キリアン・ジョルネの'24ゼガマの走行データ:スタートから19.86〜22.37kmまで


レース2度目の本格的な上り区間は、急勾配のためランナーたちを精神的にも肉体的にも苦しめます。しかし、この時点でキリアンは後続に3分の差をつけており、2022年の大会記録を破るペースで走っていました。この上り区間は非常に挑戦的ではありますが、同時にコースの主要な応援エリアとしても知られています。コース上に参加者を励ます観客がズラりと並んで後押しするのです。


レース中盤③:アイスコリ~アケテギ

キリアン・ジョルネの'24ゼガマの走行データ:スタートから22.37-23.29kmまで


この短い区間は、参加者たちがコースの最高地点に到達する場所です。山岳地帯の尾根沿いにあり、途中にいくつかの小さな山頂を越えていきます。この辺りでは天候が予測不可能であり、岩がゴロゴロとした地形を走る際に細心の注意が必要です。


レース後半①:アケテギ~パソ・アンドライツ

キリアン・ジョルネの'24ゼガマの走行データ:スタートから23.29-30.29kmまで


この区間は比較的緩やかな地形で、短い上りと下りが交互に訪れます。このリズムによって一時的な休息タイムをとることができる区間であり、リズムを刻みやすくなります。また、この区間で激しい上りは終わりとなるので、30.29km以降はフィニッシュまで下りだと一気にスピードが上がります。


レース後半②:パソ・アンドライツ~フィニッシュ

キリアン・ジョルネの'24ゼガマの走行データ:30.29kmからフィニッシュまで


最後の10kmはフィニッシュまでの下りで、通常であればスピードに乗り続ける区間です。キリアンは大会新記録を目指してこの下りを走りましたが、彼の胃の不調の影響で最後はペースを落として安全走行に切り替えました。そして、後続との差をリードし続け、見事に通算11回目のゼガマでの優勝を達成しました!

写真:Chris Alonso


COROSデバイスでのトレーニングとパフォーマンス

COROSチームは、2024年のゼガマでのキリアンの素晴らしい成果を誇りに思っています。COROSのデータ指標であるベースフィットネス、出力ペース、心拍数などを活用することで、キリアンはトレイルでの限界に挑戦し続けています。私たちは今後も彼の競技やトレーニングをサポートし続けることや、彼が次にどんな成績を残すかということを楽しみにしています。

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